熱海新聞/伊豆新聞/伊豆日日新聞(2014年6月22日)

 家庭医療とは,日本ではあまりなじみのない言葉ですが,欧米では広く認知された医療の専門分野のひとつです.別称として,プライマリ・ケア,総合診療,総合医療,地域医療などの呼び方もあります.一人の医師が,従来の医療の専門科たとえば内科,小児科,皮膚科,婦人科などに分かれた診療ではなく,患者さんの性別・年齢・臓器にとらわれずに広く総合的な診療を行うものです.
 家庭医療を担当する医師(家庭医)は「日常病」の気楽な相談員です.日常病には最適な治療をおこない,珍しい病気や専門的な検査や治療が必要な場合は,患者さんに説明し適切な専門科をご紹介します.体だけの病気でない場合(こころの病気)も治療を担当する能力を持ち,家庭や職場はもとより地域の状況・環境も考慮して最良となる診療を目指します.家庭医療は広く医療-保健-福祉-介護の各分野間のつながりを重視し,人と人との互いの「コミュニケーション」を大切にする医療でもあります.
 家庭医は,学校の先生でいえば,国語から体育まで担任の先生がすべての教科の基本的な部分を教える,小学校の先生のようなものです.しかしこの医師が小学校の先生と違うのは一人の患者さんと可能なら「揺り籠から墓場まで」の生涯にわたってトコトンおつき合いをさせて頂きたい,と願いながら働いていることです.
 私は1987年にWHOが主催する「プライマリ・ケア教育研修」を受講して帰国しましたが,以来30年近くわが国における家庭医の養成・教育と制度確立に携わってきました.近年は日本プライマリ・ケア連合学会の「家庭医療専門医」の資格授与試験の試験委員を務めてきました.この試験は単なるペーパーテストではなく,医師としての心と技術の双方を厳しく評価するものです.
 これからの日本の医療は,この試験にパスした高い診療能力と温かい心を持った若い家庭医達が担っていくのではないかと私は大いに期待しています.


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