熱海新聞/伊豆新聞/伊豆日日新聞(2014年3月30日)

 私のクリニックには「心」の悩みを抱えた方が多数診察に来られます.心が傷つき,疲れ果てた方達です.少しでも「癒やし」となるように,面接時には私は姿勢をやや左前にして,あたかも母親が赤ちゃんを抱くときの心境を頭の中で再現しながら診療するように心がけています.
 お母さんが赤ちゃんを自然に抱く場合は,多くの場合は左腕に赤ちゃん身体を乗せて右腕を上から回すように添えて抱きます.これを「左抱き」と言います(その反対を右抱きと言います).皆さんも身近に赤ちゃんがいましたら試してみてください.およそ8割の人が左抱きをします.この不思議な現象は最初にアメリカの学者が古今東西の「聖母子像」の絵画を見て気づきました.のちにイギリスの動物学者デズモンド・モリスという人が面白い調査をしています.赤ちゃんを抱いてマーケットに来るお母さん達をこっそり隠れて観察をしたら,やはり8割のお母さんは左抱きをしていたのです.モリスさんは当初は右利きの人が多いので利き腕である右腕を自由に使いたいために「左抱き」するのか,と思っていました.ところが左利きの人ばかり集めて赤ちゃんを抱いてもらっても「左抱き」の比率はまったく変わらなかったのです.
 さまざまな研究の結果,どうやら赤ちゃんを「左抱き」することによって,母子双方が安心感を得ることができるのではないか,と考えられるようになりました.「左抱き」では母子とも左眼で相手を見ることになります.左の眼から入った情報は、感情脳である右脳に送られますのでお母さんも赤ちゃんもお互いに心の状態をとらえることができます.
 驚かれるかもしれませんが,心の病気を持つ患者さんは幼いときに無償の愛情で抱きしめてもらえなかった悲しい記憶があることが多いのです.お父さんお母さん,どうか一日一回あなたのお子さんを強く抱きしめて,お子さんの目を優しくみつめてあげてください.

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